(ア)総論的に
第2章で分析いたしましたように、本中央会傘下の各企業に関しての「長期休暇制度」の現状について次のようにまとめることができます。
まず人的充足状況から見て、現在本中央会傘下企業の大半は常用従業員50人未満の事業場であり、余剰人員といえるような人員は当然のことながらいないのが現状です。言い換えれば、必要最低限の人員であり、今後もこれを増員するような余裕などない状況下で、「長期休暇制度」を導入するということは不可能なように思われます。しかし、年次有給休暇をうまく利用して長期休暇を導入している企業もわずかではありますが存在しています。注目すべきは、導入されたきっかけ(動機)をお尋ねしたところ「会社と(従業員)の関係改善が必要と考えたから」「昔からの慣習」「従業員の心身のリフレッシュが必要と考えたから」という順で、大半を占めていることです。長期休暇導入のきっかけというものは、通常このようなものだと思います。実際導入してみてその効果は「従業員の心身のリフレッシュにつながった」「仕事の効率がよくなった」「従業員の働く意欲が向上した」「会社との信頼関係が強くなった」というポジティブな結果が過半数を占めています。
では導入されるに至る際に目の前にあった壁(阻害要因)は何だったのかを調査してみると、「親企業等の取引企業(または顧客)への納品期限或いは受注時期の不定期性」「景気低迷」で半数弱を占め、余剰人員はいないという意味から「人手不足」という理由が、導入阻害となる三大要因といえ、現在未導入の企業の皆様も同感できると思います。
しかしながら、これを打破した(阻害要因の取り除いた)方法を続いて尋ねてみると「特に何もせず、とにかく実施してみた」「従業員に任せた」という回答が上位を占めており、雇用者の胸三寸、思い切りのよさで打破できるものといえるのかもしれません。
(イ)地域による温度差はあるのか
次にこの傾向は従業員規模等により差があるか否かを分析したところ、従業員数が4人以下の事業場は導入している企業の率が最も低いが逆に50人以上の企業が最も多いという結論にはならず、5人~9人規模の企業が「変形労働時間制の有効利用」や「年次有給休暇の計画付与」等をうまく活用して(導入済みの企業数でみて)最も高い率で導入しています。つまり、導入する、しない(できる、できない)は企業規模に必ずしも比例するというものではないということがいえます。
では、地域によってはどうか。これについても分析した結果をみると、湖北地域を除く大津、東近江地域ともほぼ同じ率であり、あまり地域性によりその導入に影響していないのかもしれない様に見えますが、変形労働時間制の活用が最も高い東近江地域は、工業団地の増加が反映されているものといえるでしょう。
(ウ)業種間での温度差は
更に、業種別に分析してみると、変形労働時間制の中でも特に1年を単位としたものを最も活用しやすい製造業よりも、飲食業・その他の業種が変形労働時間制を活用した長期休暇導入を行っています。
(2)今後の取組についての提案
(ア)休日と休暇
本調査の中で所定休日についてもその回答をいただき、1週40時間労働という法定の労働時間をクリアするため、法律で規制された最低限度(ミニマム・スタンダード)を遵守するために年間の所定休日を確保されていることが明らかに分かります。
では、年次有給休暇や今回の長期休暇等の「休暇」と、「休日」とは何が違うのかについて考えてみましょう。「休日」は前述のように法令で義務づけられているものと、労働時間の問題で結果として義務づけられるものがあり、いずれも義務で、これは雇用主が積極的に取組むべきものです。
これに対し「休暇」は年次有給休暇等法令でその要件さえ充足すれば付与(権利を与えるという意味)しなければならないものや、産前産後、生理休暇等労働者の請求があれば与えなければならないものがあり、いずれも権利を付与すれば、その行使は従業員に委ねられているということが大きな違いです。
(イ)長期休暇制度という休暇
では、今回取組みました「長期休暇制度」というのはどちらに属するのでしょうか。当然法令でその義務を雇用主に課したものではありませんので「休日」には属しません。しかし、年次有給休暇のように法令でその付与要件を定めているものでもありません。つまり、「長期休暇制度」というのは、雇用者が与える恩恵的な労働の免除制度、或いは雇用主と従業員との間で締結された紳士協定により制度化した休暇に他なりません。雇用者はこれにより、従業員にその付与要件を示し、従業員はこの要件充足ができれば、その権利を行使できるものと考えられます。
(ウ)年次有給休暇の計画的付与の有効活用
但し、この長期休暇は先の年次有給休暇とはまったく違った異質のものを誕生させる必要はなく、年次有給休暇をうまく組み合せてもよいわけです。例えば、年次有給休暇は5日を残して(自由に利用させて)他の分を労使協定により計画的に行使させることができます(これを「年次有給休暇の計画付与」といい、本分析の中でも取り上げています)。これにより、年次有給休暇の繰越しが多くなりすぎるという弊害を除去し、かつ、個人によりその取得率(権利の行使率)のアンバランスもある程度解消できるという効果があります。
(エ)変形労働時間制の有効活用
一定の期間を平均すれば法定労働時間以下となるような労働時間施策を「変形労働時間制」といいます。この中で特に、1年単位の変形労働時間制というものは、1年の期間で繁忙期と閑散期に分けて繁忙期には週1日の休日、閑散期には集中して休日を与えるという柔軟な労働時間管理が可能です。この制度を上手く活用すれば閑散期や、GW、夏期、年末年始等に連続した休日、例えば4月29日~5月5日の間の平日に年次有給休暇を一斉付与して7連休にしたり、いわゆる飛び石連休の間の平日を休暇日にすることによりその実現が可能になります。
(オ)労使協定という労使コミュニケーションすべてはここから始まる
しかし、ここで注意をしなければならないことは、あくまでも年次有給休暇の計画的(一斉)付与や1年を単位とした変形労働時間制というのは労使協定により始めて行使、採用できるものです。ここでいう労使協定とは、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合には、当該労働組合、ない場合には、従業員の過半数を代表する者との協定をいいます。この従業員代表が、雇用者の一方的な指名であったり、御用組合のように雇用者のみの意思が反映される場合は、これに適しません。あくまでも労使の公正な話し合い、労使コミュニケーションが必要とされる場面であるのです。労使コミュニケーションは、通常従業員側からその申入れを行うという風習が我が国においては乏しいとはいえ、あくまでも、雇用者側からの歩み寄りが必要であることは御承知の通りです。労使コミュニケーションの充実は、会社内での潤滑油の役割を果たし、企業活動の起爆剤の一つにもなり得ます。ここに強い組織を作る礎があるともいえるでしょう。長期休暇制度は、そのような強い組織作りのための一つの手段とお考えいただいてよいと思います。長期休暇の効果の第1に「企業の活性化」が挙げられているのは、まさにここにあるといえるでしょう。また、休暇を利用する従業員においても、海外旅行等により異国文化や歴史遺産に触れることによりその感性が磨かれ、或いは、自己啓発により自己研鑚を行うことも充分に考えられ、結果として会社にフィードバックできる可能性があると思います。 何も、難しく考えず、また無理をしない程度に、例えば年次有給休暇を取り難いポストにある従業員や、職種の方から思い切って連続休暇を与えてみませんか。きっと思っていたより、簡単にまた何とかなるものだと思っていただけるような気がいたします。
(カ)今後の企業活動の内面に潜む課題克服のために
これからの企業活動において、特に内に向かっては「安全配慮義務」が問題となってきています。「特別な社会的接触関係」にはいれば、信義則(信義誠実の原則)上の付随的義務として、従業員等の生命・身体を危険から保護ずるよう配慮すべき義務が認められてきています。というのは近時、「過労死問題等」により1.残業時間の規制、2.健康不安を抱える従業員の処遇、3.受動喫煙等健康面の配慮等が問題とされ、「健康配慮義務」も注目を集めており、従業員の健康面への配慮は非常に重要となってきています。休日はきちんと与えられているというだけで、健康配慮義務が果たせていると言い切れない社会になりつつあります。この側面からも、休暇制度充実の重要性が窺えるかと思います。
さて「長期休暇」とは何でしょうか。直訳してLV(Long Vacation)制度とはせず、あえてLQ制度と称しているのは、Life,Quality,LongのLQ、生き方を考え、品質の高い、長い休暇制度ということに視点を向けているからです。そもそも「週休日と年次有給休暇とを組み合わせた2週間程度の休暇」を目標に掲げ、そのステップとして1週間程度のものに分けることも含め、まとまった日数の休暇を実現することを目標としています。その効果は、1.企業の活性化(心のゆとり)、2.家族の団欒や絆の回復、3.経済の活性化、4.ゆとりある生活、5.自己啓発など職業能力の開発・向上、6.地域社会活動への参加等があることはこれまで申し上げてきたとおりです。
最後に、導入が決まれば具体的なルールを必ず労使協定または協議により決めておくことをお勧めします。しかも、無理をしない程度に。導入後企業活性化の観点からマンネリズムが発生し、毎年長期休暇がもらえて当然という意識が芽生えると、権利行使のみが優先されることになりかねません。権利の反対要件として義務があることも念頭に置きながら、具体策を纏めた後は、思い切って導入してみてはどうでしょうか。
